スウィート・ナイト
座りこんだ石畳の階段が、痛いくらいの寒さを伝えてくる。
季節は冬。服はノースリーブ。半ズボン。
え?ああ、俺じゃねぇよ
「一番乗りぃいい!!」
あっちで勝利ポーズ決めてる、チビマッチョだよ。
気に入りのシルバーのシェイカーを、肩から下げたずだ袋から取り出す。
腰掛けた階段から見える広場には、オンステージ決め込むアイツ以外には誰もいない。
いるとしたら、ここに座ってる寒さ対策にたっぷり厚着した俺と、
「くん、クリーム買ってきたよ!」
アイツのパートナーにあたる、俺と同じくしっかり厚着した椿ぐらいだ。
手渡されたクリームを、牛乳と砂糖、溶き卵を入れてほのかに甘い香りをただよわせるシェイカーにプラスする。
しっかり蓋をして、カシャカシャとシェイクしながら隣で熱湯を入れて木彫りのマグをあたためている椿と、相変わらずビッグな武勇伝を語るアイツを眺めてみた。
小さな身体で、誇らしげに語るアイツは、きっといつか神になるんだろう。見れば解る、奴は大物だ。
椿を伴い、闇と光を纏って風の様に闘うアイツは、俺の憧れ。
アイツを支え、陽射しの様にあたたかな笑みをたたえた椿は、俺の理想。
始めてこの死武専で出逢った年から、寒い秋冬の夜こうして三人過ごすのは恒例になりつつあった。
「ほらよ、椿の」
「ありがとう」
あたたかなクリーム色の液体を、椿が用意したマグに注ぎこむ。
香りつけにシナモンも入れてやれば、嬉々とした柔らかな笑み浮かべた唇が、それをゆっくりと飲んだ。
もう一杯分作ったそれを、アイツ用のマグに注いで派手なパフォーマンスを繰り広げるアイツを呼ぶ。
小さな黒い点が、見る間に人の形になるのを微笑ましい気分で見つめた。
夜の街並み、キラキラ光る街灯を眺めるアイツの隣に俺、挟んで逆隣に、椿。
揃いのマグに、アルコール抜きのエッグノッグ。
三人揃って眺めるこの街並みが、この夜空が、俺に取って何より大事な宝物なんて…
「ぷはーっ!、もう一杯!」
「の、飲むのが早いわよブラック★スター…」
…この二人は、知らないんだろうな…。
その後、1リットルの牛乳パックと10パックの卵が
小さな身体に消えていく手伝いをせざるをえなかったのは
三人だけの秘密。
fin
[author: MONAKA * bg: Microbiz]