neighbor

わたしは、ごく普通の武器で、ごく普通の職人とパートナーを組んでいて、ごく普通に学生生活を楽しんでいる。


―――はずなのに……。

…何だろう。この重苦しい雰囲気は…。




ー、今日帰りにちょっと話があるから、カフェによってもいい?」

今朝、3歳年上のパートナーはわたしに言った。

「え?別にいいけど…。帰ってきてから家で話すのじゃだめなの?」
「うん、呼ばなきゃいけない人たちがいるから」
「ふーん…」

そして、放課後。
集められたのは、彼女、わたし、そして彼女と付き合っているスピリット先輩、先輩の職人でわたしの同級生でもあるシュタインの、合計4人だった。

その面子で集まることはよくあった。といっても、年上の2人のデートに、わたしやシュタインがつきあわされてただけだけど…。
ついでにいうと、その次の日には、必ずといっていいほど、シュタインは先輩についての愚痴とか、どう先輩を解剖してやったかとか、隣の席のわたしに話してくるのだ。


しかし、いつもと違うのは座る位置。
普段は、4人席の奥にわたし、隣に彼女、その前に先輩、その隣にシュタイン…という席。しかし今日は、わたしの横にシュタイン、その前に先輩、そしてなぜか目の前にはパートナーがいた。

つまり、わたしの隣にいるのが、パートナーじゃなくてシュタインだったということだ。

なぜそのような席なのかを聞こうにも、この重苦しい雰囲気…。
わたしは、この空気を払拭するため、とりあえず適当に話題をつくろうとした。

その時、わたしが口を開いたと同時に話し始めたのはスピリット先輩だった。
「…なあ、シュタイン、…。実は俺たち、新しくパートナーになろうって話してたんだ…。」

はい?

彼女も続けた。
「わかってる。は、今までホントによくやってくれたわ。それでも…やっぱりスピリットといつでも一緒にいたいなぁ、って思って。
 それに、あなたたちだったら、もっとぴったりの槍職人も鎌も見つかると思うわ」

…ああ、そうですか。

突然すぎて、最初は頭がついていかなかったが、要はわたしとシュタインに、新しいパートナーを見つけろ、と言っているようだ。
正直言って、わたしも彼女と組んでいると、普通に楽しかったが、これ以上可能性はないんじゃないか、と思っていた所だ。
…まあ、仕方ないな。

そして、「わかった。じゃ、2人ともがんばってね」と言おうとしたところを、隣の人物に遮られた。

「いいよ。ただし、俺とに勝てたらね」

―――え?

そう思ったのは、わたしだけではなかったらしい。
彼女も先輩も、ポカンと口を開けている。
そして、先輩が言った。

「そ、それはつまり―――。お前とが即席のパートナーになって、俺たちと決闘するって意味か?」

はい?

「そういうこと」

え?

「決闘は、明日の放課後だよ」
「ちょ、ちょっと…」
シュタインがカフェを出て行く。
その背中を、わたしは急いで追いかけた。

「待ってよ、シュタイン…」
「何?」
ドアを出て、何歩か歩いたところで彼は振り返った。
「何でわたしたちが組むことになってんの? ていうか、シュタインは鎌職人でわたしは槍だし、向こうは槍職人と鎌だし…それに決闘って…」
。質問は一つずつにしてもらえる?」
面倒くさそうな顔でいうシュタイン。
そして、ため息をつくと、わたしの顔を真正面から見て、言った。

は俺と組むの、嫌なわけ?」
真剣な顔で言われて、わたしは不覚にもどきっとした。
「…べ、別に嫌ってわけじゃないけど…」

シュタインのことが苦手な人は、クラスにたくさんいる。
かくいうわたしも、彼と接するのが得意なわけではないが、互いのパートナーが付き合ってたり、 なぜだかいつも席が隣になったりするので、他の人よりは一緒にいる時間が長い。
その分、彼が本当に天才なんだってことや、さりげなく優しいところもあるってことも、クラスの誰よりもわかっていると思う。
…まあ、危ない奴だってことには変わりないんだけど。

「だったら…」
シュタインはちょっと考えこんで、言った。
「正式に俺のパートナーになってくれ、っていったらどうする?」
「…へ?」
予想もしていなかったことを言われ、わたしは変な声を出してしまったようだ。
シュタインは笑いながら言った。

「いや最初は、決闘で俺たちに負けてるようじゃ、彼らはこの先やっていけないってだろうっていう意味で、即席の俺達と…って言ったんだけど…、それだけじゃつまらないから、俺達2人であいつらが驚くような、強い武器と職人になるのはどうだろう、って」
…なるほど。
「…確かに、あの2人の色ボケバカップルの鼻を明かす、っていうのは悪くないけど…。でも、そんな簡単に武器を決めて、シュタインはいいの?」
「なにが?」
「だって、シュタインは、天才で、強くて、成績もいいし…。わたしみたいな平凡な武器じゃなくて、もっとぴったりの武器がいるはずじゃない…。」
わたしは、わたしのせいで彼の才能を潰してしまうのが怖かった。
「…わかってないね」
彼の言葉に、わたしは首をかしげた。
「え?」
「この計画は、俺とじゃないと意味がない。あえてあの2人の元パートナー同士が組むことで、以前と比較させる。
 そしてあの2人が、うまくいってない時に俺達を見て、『あの時感情にまかせてパートナーを変えなければよかった』と後悔させることができる。」
「…なんていうか、すごく陰湿な計画」
目の前で怪しげな笑みを浮かべている彼に、わたしは言ったが、なぜだかそんな彼が急に頼もしく見えてきた。
そして同時に、彼とならもっと強くなれる、そんな気がした。

「…それに、を毎晩解剖できるかと思うと楽しそうだし…」
「え?何か言った?」
わたしは、シュタインがぼそっとつぶやいた言葉を聞き取れなかった。

「大丈夫、こっちの話♪ には、まだまだ才能が眠っている。それは間違いないよ。あの職人ができなかった分まで、俺はを使いこなしてみせる。」
「…わかった。では、わたしの身は貴方に任せます」
わたしは彼に手を差し出した。
彼はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫です。お任せください」

そして、わたしたちは握手を交わした。





―――わたしたちが年上の2人組を馬鹿に出来なくなるのは、少し先のこと。

end.

[author: ぴくみん * bg: web*citron]