市街地から少しだけ離れたこの教会は、創立から30周年を迎える。
記念パーティー(庭で立食するだけだけど)に呼ばれた死神様の代わりに、私達が参加することになった。死神様は鏡からお祝いの言葉を述べてその後にジャスティンが讃美歌を歌う。デスサイズなのに讃美歌も歌えて、死神様は彼に二物以上を与えている。


「ジャスティンってさ、弱点とかないの?」
「弱点ですか」
「例えば苦手な食べ物とか」
「特にありませんね」
「苦手なもの、ないの?」
「苦手なものは、ないですね」
「…弱点はあるってこと?」
「そうですね…秘密にしておきましょうか」
ジャスティンが微笑んで、人差し指を唇に当てた。…かっこいい。
「どうしました?顔が赤いですよ、
「な、何でもない。ジャスティンは、いつから讃美歌歌ってたの?」
「小さい頃から、ずっと教会の少年聖歌隊にいました。たまにソロをやらせてもらったりしながら。死神様の偉業を称える讃美歌は数多くありますが、私はリーガ・ベネの“光の元に”という聖歌がお気に入りですね」
「ふーん。じゃあ今日歌うのはそれ?」
「いえ。今日のは特別な聖歌ですよ」
「特別?まぁ、創立記念だしね」
「さぁ、死神様の素晴らしいお話が始まりますよ。教会に入りましょう」
「うん。でもそのイヤホン取ったほうがいいと思う」
厳粛な場で音漏れとかシャレにならないから。




Obedience








最初はこの教会を任されている牧師様がお話をされ、次に鏡を持った弟子が死神様を呼んで、いつものノリで教会の創立記念をお祝いした。
「それではデスサイズのジャスティン様による、讃美歌をご披露していただきます」

ジャスティンが皆の前に立った。
「今日こうして我らが心穏やかに息をすることができるのは、他ならぬ我らが神、死神様が世界の平和の為に尽力されているからです。私はこの聖歌を大切な人に、そして死神様と教会の発展に捧げましょう」

…普段聞かない言い回しだな。
「…緊張してたのかな」
ジャスティンは息を吸った。

「There two are not two
Love has made them one
Amo ergo sum!
[I love therefore I am!]
And by its mystery
Each is no less but more
Amo ergo sum!」

ここにいますふたりはふたりではない
愛がふたりをひとつにした
『われ愛す、故にわれあり!』
その神秘にて
お互いはより高められる


「…?」
この讃美歌は…。

「あたかも山間のせせらぎがお互いを見出し、
ともに溶け合って
広漠にして悠々たる大河となるように、
そして海原に流れ込んで
永久に姿を消すように、
愛するものたちもお互いを求めよ」


その場にいた皆が立ち上がって、ジャスティンと一緒に歌い始めた。

「そしてひとつになって
神の愛のもとに結び合ったならば、睦まじく、
たとえこの世の命は短かろうとも、
神によってふたりは永久に愛し合う。
なぜなら、愛することは「ある」ということ
神を愛することで、わたしはあなたを愛する
『われ愛す、故にわれあり!』」




皆が私を見た。
、私は死神様に無理を言ってこの聖歌を歌うことを許して頂きました。この教会は、あなたがその名を与えられた場所…。あなたが多くの人に愛され、健やかに育つよう牧師様によってあなたはと名付けられた」
「どうして…知って」
ジャスティンが咳払いをした。
「これでも、神父なんですがね」
私は立ち上がってジャスティンの前に立った。
「婚礼のアンセム…。皆、やってくれたわね」
皆が笑った。どの顔も、私を昔から知っているご近所さんだ。

彼は私の右手薬指に銀の指輪を通した。
「指輪のダイヤモンドは美しい輝きを持っています。ですが、」
「美しいものは宝石じゃなくて、それを美しいと感じる心…でしょ?」
「その通り」
ジャスティンが跪いた。
「生涯、私は死神様とあなたに服従します。どうか、私と共にいてくれますか?」
「死神様が同列なのは…まあ仕方ないか。夫になるあなたが信じるなら、私はどこまでもあなたと共にいます」



皆の拍手が教会いっぱいに響く。
ジャスティンと私は牧師様の合図で、誓いのキスを交わした。

[author: スウ]