――――――― 思い出すのはオレンジ色に染まった夕日

不思議とそれを背景に佇む君には心安らんだ



Tangerine











「どうして?なんでそんなに協調性がないの?」


いきなり俺の前に登場した彼女は
何かっていうと協調性を問う体育会系の女。

「パートナーと息が合えば其れで職人として成り立つんでは?」

シュタインは目の前で仁王立ちしている彼女を、本から視線を上げチラリと見ただけでまた其処へ戻した。
彼女はそれだけの素振りで苛立ったようで机をバンッと両手で叩く。

「違うよ!そういうことじゃなくて!みんなと楽しく・・」

、死武専ってどういうところだと思ってる?」

「友情と青春と汗」

「その」

そう言ってシュタインは彼女を指さした。
彼女は焦ったようにバタバタと手で叩き確かめながら自分の身体を見渡す。

「へ?どこ?なに?」

「じゃなくって、間違っている。その考え方」

身を捩り背中まで見ようとしている様は滑稽で可笑しいほど。
その身振り一つとってもシュタインは彼女の短絡的思考についていけない。


「此処は武器として、又は職人として、切磋琢磨する場所」


ふっと溜息を吐くと読書を諦め眼鏡をとり、その蔓を苛立たしそうに噛んだ。
顔の表情は相変わらずに。俺は感情を外に出さない。

「青春ゴッコなら別に出来るトコ、あるよね」

彼女は怒ったようで眉を上げ顔が気色ばむ。
その色は何故か赤くというよりオレンジに見えた。

オレンジは情熱の赤、そして光りの黄色を混ぜた色。
暖かく再生を意味するものでもある。

彼女を色に喩えるとしたらオレンジ。

俺の最も嫌いな色。


「もう俺に構うな」

「ちょっ!!シュタイン!!」

見れば行こうとする出入り口付近に男が立ちはだかっている。

「あっれー何か険悪ぅ?」

からかうようにニヤニヤしながら、赤い髪の男が俺達に手を上げて挨拶をした。


「スピリット先輩!!もー聞いて下さいよ!シュタインがねー」


彼女は自分の存在などないかのよう真っ直ぐに彼へ向かう。
それを視界の端で捉えながら、シュタインは其処から離れた。

振り返れば、二人で仲良さそうに話している。
互いに笑顔を浮かべながら、俺の悪口でも言って意気投合しているんだろう。

彼の赤い髪は彼女に良く合っていると思う。
そう赤は情熱。それに負けない様な熱いモノを胸に秘めている男。


―――――――なんだか…な


シュタインはそのままテラスへと出た。
そして砂漠の向こうを見る。

乾いた風が頬を撫でて髪を踊らせた。
心地よさに目を閉じると背後で人の気配がする。

それは
追ってきたことに驚いた。


「まだ話し終わってないでしょ!」

「そういうことか、負けず嫌い」

「なに一人で納得してんの?」

「だって、先輩と話してたんじゃないの?」

彼女は眉間に皺を寄せ、こちらの真意を測りかねている。
ハッキリ言わないと分からないらしい。

「スキなんでしょ?俺になんか喧嘩売りに来ないであのまま話してれば?」

「へ?」

「顔が赤い」

「別にそんなんじゃないもん」

先程の勢いはなくなり、声が段々と小さくなる。
これではスキだと言ったようなモノ。
彼女はまるで言い訳するようにブツブツと話し続けた。

「先輩もてるし、憧れっていうか、話しやすいって言うか」

、君じゃダメかもね」

「…嫌なヤツ」

もっと悲しい顔をするかと思ったら、案外彼女は晴れ晴れとしていた。
返ってきた言葉の割には落ち込んでいる風もなく笑っている。

「シュタインって、この空みたい」

「…意味分からないんだけど」

また、始まったか、と心密かに思う。
の比喩に比喩を重ねたような分かりにくい言葉遊び。
彼女はそうして俺に語りかける時がある。

正直、何を言いたいのかが全く分からない。

「だって、クールで冷静で…いっつも平常心でフラット」


そう―――――――上辺だけ見ていればそうさ。

俺にだって先輩の髪のように赤くなくとも燃える感情がある。
青白く燃える炎は、赤いそれよりも熱は高い。
ただ、は知らないだけで…


は見たまま熱くて明るくて…」


俺の嫌いな…………


「君はタンジェリン」


彼女は不満げに口を尖らせるが、次の瞬間クスッと笑いを漏らした。
何が可笑しいか分からないが、気の利いた台詞ではなかったことは確か。

やっぱり俺には彼女は分からない。

「色に喩えると私がオレンジで貴方はブルーね」

「ふーん、反対色か…合わないわけだね」

「混ぜるとグレーだよ、ひさーん」


相変わらず軽口をたたき合っていると、ゆっくり日が傾き始める。
段々と暖かなオレンジが俺達を包んでいった。

二人でその夕日を眺める。



「でも光りだと、二つがまじわれば白くなる」



「白・・・それは素敵ね、シュタイン」






彼女を色に喩えるとしたら オレンジ

俺の最も嫌いな色





「どうして?なんでそんなに協調性がないの?」


彼女は久しぶりに再会した俺へ、まったく同じ言葉を言い続ける。
正直飽きないかな、と思ってしまうぐらい台詞回しも変わらない。


、死武専ってどういうところだと思ってる?」

だから俺も同じ言葉を面倒くさそうに返す。

先輩は可笑しそうに肩を揺らしていた。
彼に弱点を知られるなんて、まったく、えらい失態だ。

「もちろん!!」



は満面の笑顔で昔のように答えた。



「友情と青春と汗」


そう自慢げに胸を張りながら。







君は




大嫌いな

―――――――愛しのタンジェリン





end

執筆  tefu



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