同じ空間にいてもあたしは誰にも相手にされない。
皆あたしを嫌って避ける。
別に何かしたわけではない。
元々そうなんだ。
だからもう何もかも諦めていた。
だってあたしは―――
Ugly duckling
(みにくいあひるのこだから)
お昼休み―――。あたしはこの時間が2番目に嫌いだった。チャイムが鳴り終わると、他の人は友達と楽しそうに話しながら教室をでてお昼を食べに行く。あたしはというと、一緒にご飯を食べにいく友達は一人もいない。だから毎日一人でこそこそと誰も人がいない場所、死部専の外れの崖近くにいた。一人で教室を出るのは嫌だった(でも今はもうなれた)けど、この場所は凄く好きだった。
「いただきます」
きちっと手を合わせていつも通りお弁当を食べようとした時、
「ひゃっほぉう!!」
頭上からものすごい音とともに、背中を合わせていた木からがさっと何かが出てきた。驚いて上を見上げたが、太陽の光のせいで影が真っ暗になって顔が見えない。お昼休みまでこんな遠くの所にくる人なんてそんないないのに・・・。
(眩しい・・・。誰だろう・・・?)
右手を影にして、目を細めて見ようとしたら、
「おわぁっ!!!」
「!?」
ドテっと鈍い音を立てて頭上に跳んでいた人が落ちてきた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
「おう!このぐらい俺様にとっちゃ何でもねぇぜ!」
ガバッっと起き上がってあたしに笑いかけてきた。
その時わかった。この人は同じクラスの「ブラック☆スター」だ。目立ちたがりでいつも明るいクラスのムードメーカーで、人気者。あたしとは正反対だ。
「ん?あれ、お前って・・・」
ブラック☆スターは何か気づいたようにあたしの顔をじっと見てきた。一度も話したことなんてないし、顔を合わせたことも全くという程無い。あたしが彼のことを知っているのは、彼が常に目立ちたがりで人前に出ていることが多いから。きっとあたしの名前なんて知らないだろう。そう思っていた。
「あ!わかった!だろ!?同じクラスの!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「えっ、違ったか・・・?」
何故だろう・・・?何故あたしの名前を知っているのだろう?思わずポカンとしてしまった。
「お〜い!どうしたぁ?反応しろよ?」
「・・・です」
「やっぱりな!そうならそうとはっきり言えよなぁ」
この人はあたしのことを嫌っていないんだろうか?今までみんなあたしのことさけてたのに。
「・・・どうした?さっきからぼーっとしてるけど?」
「あの・・・」
「なんだ」
「あたしの、こと、嫌い、じゃ、ないんです、か?」
今まで学校で誰とも話した事なんてなかったのに。こんなに普通に接してくるなんて。驚きすぎてどうしていいかわからない。でもブラック☆スターは、あたしが言った言葉に不思議そうな顔をした。
「なんで?なんで俺がお前のこと嫌いになんなきゃいけないわけ?」
ブラック☆スターは心から不思議そうに言った。
初めてだ。こんなこと言われるのは。こんな普通に接してくれるのは。
「俺に嫌われたいわけ?」
「ち、違っ・・・!」
「あはは。冗談だよ。じゃあ改めて自己紹介!俺様はブラック☆スター!ヨロシクな★」
「あ、、です。よろしく、お願いします」
「おう!!」
そう言って彼はニカッと笑った。
――――――――――――――――――――――――――――――
「はい。じゃあ二人一組になって観察始めてー」
あぁ、この時間がきた。あたしの一番嫌いな時間だ。いつもこの時間は一人になる。(だっていっつもペアになるような友達なんていないから。)シュタイン博士の声とともに、もう何人かの人たちはすぐにペアになって動き出した。どうせあたしは今日も端で一人でやるんだ。そうおもってさっさとやってしまおうと思ったとき、
「お、いたいた。ー!」
「ブラック☆スター・・・」
なぜ彼が今このタイミングで話し掛けてきたんだろう・・・?
「お前まだペアきまってねぇの?だったら俺と組もうぜ!」
「・・・え・・・・・・・・・・でも・・・・・」
ブラック☆スターにはちゃんと椿ちゃんと言うパートナーがいる。なのに、あたしなんかと組んでもいいのだろうか?
「椿ちゃん、は・・・」
「椿?大丈夫だよ。どうせマカ組とキッド組と一緒にやったら一人余るしな。なぁ、椿?」
「えぇ。あたしは別にかまわないわよ?ね、マカちゃん?」
「うん!どうせだったら皆でこっちでやればいいじゃない!」
「そうだよ!もそんな端っこにいねぇでこっちこいよ!」
そう言ってブラック☆スターはあたしの手をくいっと引っ張った。
「わっ!!」
「あ、大丈夫か?」
「ブラック☆スター!もっと優しくしなきゃ駄目でしょ!」
「わりーわりー」
ブラック☆スターはひゃっはっはっとか笑いながら椿ちゃんに怒られていた。
どうして、この人たちはあたしに優しく接してくれるのだろう。これが普通なの?そもそも普通ってなんなんだろう?今までのあたしは普通じゃないの?
「あの・・・」
「何?」
「あたしのこと・・・嫌いじゃなかったですか?」
今まで誰ともはなしたことなかったのに。一日でこんなに人と話すなんて。
「あたし、今まで・・・人と話すなんてことほとんどしてこなかったし・・・。嫌われてたし・・・。誰とも接してこなかったから、ずっと今でも嫌われてると思いつづけてたし・・・。どう接していいか・・・わかんない・・・」
何もかもがわかんない?
「だって普通じゃん」
口を開いたのはマカだった。
「嫌いになる理由がないし、だってもう友達でしょ?」
「前になんかあったかもしんないけど、もう今は関係ないもの」
「普通になんでも話して、遊んで、一緒にいるのが友達。それが普通なの。今までは一人が普通だったかもしれないけど、これからはみんなでいるのが普通になるんだから」
「仲良くするのに理由なんていらねえしな☆」
「そうそう。見事なシンメトリーだしな♪」
「いや、それ関係ないけど・・・」
「きゃははっ☆」
「とりあえず、ここにいる七人はのことが嫌いじゃないってことだ」
一瞬何を言われてるかわからなかったが、少しずつ、少しずつ理解できてきた。
これがきっと、普通なんだ。
「ありがとう」
でも今は、これはあたしにとっての普通じゃなくて、最高の幸せ。
初めて存在を認めてもらえた気がする。
普通という幸せ。
(それがなによりも嬉しいの)
[author: 柚乃]